檻の中のライオンライオンマーク

2002年5月〜6月にかけて執筆

2002年早春、ブルーライオン松山様のご厚意によりプジョーの307に試乗する機会がありました。
約半日の短い試乗ではありますが、初めてのフランス車ということに加えて強豪ひしめくこのクラスにプジョーが
自信を持って送り出してきたクルマということもあり、興味津々での試乗記をレポートします。

美川村にて 面河村にて
このクルマは2001年3月ジュネーブショーで登場。日本では翌年の10月にデビューした、プジョーの言う「プレミアムコンパクトカー」です。
冒頭にも書きましたが、このクラスは競争が非常に激しくて同クラスには「フォルクスワーゲンゴルフ」「フォードフォーカス」「オペルアストラ」など世界的にも名車と知られるクルマ達がゴロゴロしています。日本国内だけを見ても3ドアー&5ドアーのハッチバック車は排気量の違いこそあれほとんどのメーカーから魅力的な車種が数多く存在し、ミニバン市場に次ぐ激戦区になっています。

そんな環境下に送り込まれた307は、グレード別に「XT」「XS」「XSi」があり3ドアーもしくは5ドアーが選択可能です。(注:XTのみ5ドアーオンリー)欧州車らしく各グレードで5MTか4ATが選べるようになっていて、この辺りは国産車も見習って欲しい点です。
売れる割合が低いという理由でAT車しか用意しない(コストを考えるとそれもまた仕方ない事だというのはわかっているんですが・・・)国産車の多いこと。
たしかに都会の渋滞の中でクラッチ操作は考えただけでゾッとしますけどね。

面河村にて 面河渓にて
サイズは全長4,210、全幅1,760、全高1,530、ホイールベースが2,610(いずれもミリ)
エンジンはワングレードで直列4気筒2リッター、137ps、19,4s-mのスペックになっています。

写真で見た感じ、いかにもコンパクトという印象でしたが、実車はかなりボリューム感があり一つ上のクラスにも見えます。
横から見るとAピラーがかなり寝ていますが、付け根を出来るだけ前方にしてその屋根の高さをうまく利用しているためそれほど圧迫感はありません。
最近国産T社が好んでデザインしているツリ目のヘッドライトですが、これは206から始まったプジョーのアイデンティテー。
個人的には嫌いではありませんが、人によったら「あのツリ目がどうも・・・」という方もいるようです。

試乗したグレードはXSの5ドアー4AT仕様、写真のとおりシブイシルバー色です。
日頃のメンテを考慮しないのであれば(汚れても気にしないのであれば)チャイナブルーと呼ばれる濃いめの青とか
アメジストというちょっと変わった紫色みたいなのもオススメします。ブラック同様、綺麗にしておけば深みがあってムチャクチャ綺麗です。
美川村にて
このクルマに乗ってドコ行こう?と考えたらやっぱり山道。まっすぐな道を飛ばして楽しいクルマではありません。
ですから松山市内から迷わずR33を南下して三坂峠へ。

私を含めて家族5人(うち3人は子供ですけど)を乗せても何のストレスもなく登っていきます。たった(?)137馬力しかないのにこの力強さ、さすがヨーロッパ車です。シフトダウンすると音はそれなりに大きくなりますが、騒音という類ではありません。

近未来的なフロントマスクに比べて比較的国産車っぽい(?)後ろ姿。サイドまで回り込んで切れ込んでいるテールランプが
わずかにプジョー車であることをアピールしているようです。

インテリアはうまく撮影出来なくてここには画像を載せていませんが、可もなく不可もなくといったところでしょうか。
ふた昔ほどのフランス車なんて質素に、悪く言えばケチっぽく作っていたような感じがしましたが
センターコンソールやエアコン吹き出し口、それにメーターリングなどにメタルを組み合わせてうまくアクセントにしており
(センターコンソールや吹き出し口はXTでは木目調パネル)安っぽい感じはありません。

最大乗車人数を乗せても307は相変わらず快調に峠を登っていきます。
この三坂峠は一部キツイ登りがあるのですが、アクセルを踏み込むとシフトダウンしてライオンのごとく勇ましいエキゾーストノートを
聞かせてくれます。国産車では遮音するのに神経を使って、少しでもエンジン音などを聞こえないようにしていますが
ここら辺の考え方の違いがクルマ作りの違いとなって表れている気がします。

日曜日で天気もいいのですが、比較的空いている道を久万町から美川村へと抜けます。
美川村からR33を離れ面河村方面へ。ここからいっそうクルマの数と信号が減って快適に山道を攻めることが出来ます。

しばらくの間、ハンドリングや加速度を試しながら走るとあっという間に面河渓に到着。
ホントはここから『石鎚スカイライン』に上がりたかったのですが、残念ながら今の季節は冬季閉鎖中・・・4月までの辛抱です。

余談ですが、ここはバイクに乗っている頃によく立ち寄ったところです。
人工の公園や遊具とかはありませんが、その素晴らしい自然は何者にも代え難いものがあります。
スカイラインを走っただけで帰るのは勿体ないので、ここに立ち寄ることを是非オススメします。
入り口には貴重な生物や植物を展示している『面河山岳博物館』がありますので、こちらもドーゾ。

前述したように各施設やスカイラインは4月になるまで閉鎖していますから、美川村まで戻ってちょっと遅い昼食を取ります。

登り道ではあまり気になりませんでしたが、下りの時になにやら違和感が・・・どうも4ATのシフト動作がおかしい気がします。
レバーが動かないとかショックが大きいとかではないのですが、こちらが意図したギヤーではなく勝手に固定されて積極的に
エンジンブレーキを効かせようと働きかけます。それはそれである意味いいのですが、ATといえども自分でチェンジする癖が
付いている私には大きなお世話。

結局クルマを返却するまでこの違和感は払拭されることはありませんでした。他が良かっただけに残念!シフトプログラムの早急な改善を望みます。



ここで独断と偏見による総合評価をしてみたいと思います。

スタイリング

どうしても似たカタチになってしまうハッチバック、そこをデザインでうまく差別化しているのはさすが。
それがフランス人の感性か、はたまたプジョーというメーカーの色なのか・・・
意地悪く見るとちょっとドイツと日本の味付けも入っているような気がしないこともないけど。

インテリア

全体的にやっぱりオシャレか?このあたり私自身にセンスがないので明言は避けよう・・・ドイツ車によく見る暗いイメージ(実用重視とも言えるけど)でないことだけはたしか。
ただ、シートはフランス車というイメージから大きく外れてかなり固め。目をつぶって座るとそれはまさしくフォルクスワーゲンゴルフ?
ダッシュボード中央に鎮座している(直射日光が当たるとほとんど見えない)マルチファンクションディスプレイはご愛敬。走行中にコレを見ようという勇気はない(爆)。

ハンドリング

これは優秀。FFらしく終始弱アンダーで安定しており、急激なレーンチェンジでも大きな破綻はなかった。タイヤはしっかりグリップして安っぽい鳴きもなし。
これがもしドイツ車だったら「さすがアウトバーン育ち」ってか?
国産車の軽すぎるステアリングに慣れた体にはちょっと重めに感じるけど、高速走行にはこちらのほうが安定感あり。

エンジン

クルマを生かすも殺すもエンジンの出来次第、というのは私の勝手な思い込み。AT比率が90%を越えるような現在ではATの出来が走りに大きく関わってくる。
それはさておき、凝ったメカもない普通の4気筒2リッターDOHC。馬力も137しかないけど1,3トンの車重ではこれで十分速い。
5人家族を乗せて三坂峠をあのペースで上がれるのはたいしたもの。3リッターも排気量があるオデッセイの方がはるかに遅い。(悲)
エンジン音は心地よくチューニングされていて、チープなノイズの発生はほとんどない。このクルマは3千回転からライオンに変身(?)するらしい。
青いライオンと対話したければひたすら回すべし。

4AT

さっきも書いたけど、日本で乗るのにはこのATはやめた方がいい。限定免許でもない限り5MTを絶対オススメする。
それでも「どうしてもATでなきゃ」という方はシフトプログラムが修正されるまで待つというのも一つの選択肢。
ぎくしゃくした変速を勝手にするし、カタログで謳っているほどティプトロニック風はマニュアルシフトしずらいし、307の大きなウィークポイント。

ブレーキ

パニックブレーキは試してないが通常の制動力は問題なし。
ABSはもちろん、EBD(制動力を分配して車両姿勢を安定させる)も装備。おまけにパニック時のブレーキアシストも完備。
コレが働くとハザードが点滅する。F1の速度制御機能みたい。

足まわり

昔から言われている「プジョーの猫足」それだけしなやかで良くできた足まわりを表現しているのだが、この307はシートの固さ同様、どうもドイツ車の雰囲気が伝わってくる。
個人的にはこのぐらいでちょうどいいのだが、ジャーマンアレルギーの方やフランス車というイメージから購入した方は期待を裏切られる。
ただ、出来自体は優秀でイヤな突き上げ感もないし、懐の深い乗り心地。国産T社はなぜ真似出来ない?

車内空間

前席、後席ともに十分なスペースがありコンパクトカーにしては広い。前席に座っても外から見るほどフロントガラスは気にならないし、後席もヘッドスペースが
ゆったりあって窮屈な感じはしない。欲を言えば前席シートの厚みがかなりあり、そのせいで膝の前の余裕がちょっと少ない。
ラゲッジスペースも広く大抵の物なら収納できそう。ロングホイールベースの恩恵。

燃費

クルマを返却するときには満タンにするのが原則で、勿論今回も給油したのだがその紙を紛失。おぼろげに記憶しているのは優に10キロは超えていた。
山道で5人乗車とはいえ、ほとんど信号のないルートが功を奏したか。ちなみに10・15モードでは10,4キロ(5MTは11,4キロ)。



総合的な評価は「良くできたクルマ」です。安っぽさや手を抜いたところがほとんど見当たりません。強力なライバル達に勝るとも劣らない出来映えであることはたしかです。
しつこいようですが、あのATさえ改良されればもっと魅力的なクルマになるはず。プログラムの変更だけでも早急に導入すべきだと思います。
せっかく『百獣の王ライオン』なのに足枷をはめられて檻の中につながれているようです。草原で自由に走り回る日はいつのことでしょうか。

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